豆は「しあわせ」のタネである

毎日新聞 連載〈19〉奥丹 清水/東山区

総本家ゆどうふ 奥丹清水

毎日新聞「とうふ屋のある町は いい町だ」連載の19回目に「総本家ゆどうふ 奥丹清水」さんを書かせていただきました。取材で、それはそれは素晴らしい光景を見せていただき、何とかその様子をお伝えしたいと原稿をまとめました。

とうふ好きな人は元より、奥丹 清水のとうふ作りの光景を、とうふ屋さんに見てほしいと思いました。「手づくり」の本質を見た思いです。

 

16代当主 小倉忠輔さんのとうふ作り

ご当主の小倉忠輔さんは44歳、見るからに和食の料理人さんです。あの塀の奥の広い敷地の主であられますし、最初はとても緊張しました。が、緊張するより知りたい気持ちのほうが勝り、思うままに質問をぶつけ、いろいろと教わってきました。

奥丹清水さんのおとうふは、その日、ゆどうふのお客さまが召し上がる分の「昔どうふ」を、毎朝地下の工房で「手づくり」されています。

私にとっての大きな驚きが2つ。とうふ作りは本当に「手づくり」で、機械を使われません。水浸けした大豆を挽くのに、石臼を回してすり潰されていました。

とうふを作る大事な材料の「にがり」も、自家製です。自家製と言っても、昨日今日〜半年やそこらで作るのではなく、30年もの、10年もの、といった感じに歳月をかけて作られます。

にがり専用のお部屋があって、ムシロに粗塩を包み、丸太に吊るしてしたたるしずくを集めたのがにがり。塩がにがり室(むろ)の湿度を吸って、しずくが垂れる。その「しずく」をにがりとして使います。

経験のない方のために書きます。みそを仕込むとき、みその元を容器に入れて表面をラップで密封し、四辺に塩を置いて蓋をします。そこから3ヵ月で天地返しをするのですが、3ヵ月後に塩はジュクジュク湿っています。あれは、元々のみそ素材に含まれる水を吸っているからなのですが、空中に浮いた状態で、粗塩が空気中の湿度を吸収し、しずくとしてしたたる‥‥ 5年、10年、気が遠くなりそうな歳月をかけて自然原理でしたたるしずくが「にがり」でした。

そのにがりを、24人分のとうふの塊を作るのに、お茶碗1杯分くらいでしょうか、混ぜておられました。

よそ様で見せていただいたとうふ作りの容器「函(かん)」は、鉄のようなアルミのような色をしていましたが、奥丹 清水さんの型枠は木製でした。工房の隅に、勤めを終えた代々の型枠が保管されていました。軽く10以上はあったように思います。

 

庭を愛でながら、せせらぎの音を聞きながら

前に伺ったのは私が京都1、2年生頃でした。白河 とら食堂の竹井さんご夫妻、にゃがにゃが亭の金さんご夫妻と5人で奥丹清水のゆどうふをいただきました。今回は新聞取材で、ひとりで行きました。

ゆどうふの写真を撮らせていただくのに、「見事な庭の緑も一緒に撮りたい」とリクエストして、机の位置や向きなど、いろいろ動かさせてもらって、結局、新聞に載ったのはゆどうふをすくう鍋のシーンだけでした。あんなにご協力くださったのにスミマセン。

いつもながら、写真は難しいです。

どう写すとおいしそうに見えるか、角度や高さを変えながら、とうふや料理のことを考えながら「書く」ための頭で食べていました。

2種類のおとうふの食べ比べは、どちらもおいしいのです。先ほど地下で作られた「昔どうふ」、それに比べてやわらかめの「おきまりとうふ」、撮影用で鍋には2人分を入れてくださいました。

おとうふを口にしながら、地下で見たシーンがいっぱい浮んできました。

緑が美しいお庭、水の流れ、鳥の声、虫の声、目に入るもの、耳に届くもの、すべてが私のイメージどおりの京都でした。

奥丹 清水のゆどうふ、取材ではなくただ味わうことをしたくて、誰かを巻き込んで再度食べに行こうと思います。

総本家ゆどうふ 奥丹清水 京都市東山区清水3-340 TEL 075-525-2051

*八坂通を上がって清水寺に行く途中にあります

 

とうふ作りの工程 おぼえ書き

とうふ作りの順序などは新聞に書きましたが、紙面の都合で写真が限られた点数しか載せられませんでした。よって、豆なブログに載せさせていただきます。

最初から3枚目に載せた当主お写真からの続きです。

▲ 大豆を水でもどし、石臼ですり潰した「呉」をお釜に移します。

▲ グツグツ炊いていきます。泡の出方をうかがいながら、3回に分けて混ぜておられました。

▲ アツアツの呉を搾り袋に移します。

▲ したたる白いのが豆乳です。これから3人がかりで搾ります。

▲「せ〜のっ!」当主の掛け声で、両端の2人は「ハイッ」と竹に体重をかけて呉から豆乳を搾ります。

▲ 袋はヤケドしそうな熱さ。氷水で手を冷ましながら搾られていました。

▲ 搾り立ての豆乳に、地下空間でできた「にがり」を加えます。

▲ 手際よく素早く撹拌し、かためます。

▲ 木製の型枠に入れて、石の重しをおいて余分な水分を出していきます。1時間ほど置くと、上の板が下がり「昔どうふ」が出来上がります。

▲ 出来上がったとうふを型枠から水槽に移して冷まします。

▲ 適度に冷めたら、とうふを桶に上げます。この状態で敷地内にある調理場に運ばれます。この大きな塊で、24人分の昔どうふが取れます。

▲ 上が昔どうふ。下に「おきまり」とうふがグツグツしています。真ん中のとっくりに、タレも一緒に温めて出されます。

2人以上で行って、「昔どうふ一通り」と「おきまり一通り」をシェアするのが良いと思います。

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豆・豆料理探検家
豆料理アドバイザー

五木 のどか

福岡県生まれ、京都市在住。個人事務所 who(ふー)所属。豆の原稿執筆、レシピ開発、販売促進などに携わる傍ら、豆好きな人を増やすため、豆料理の楽しさやおいしさ、使い方を伝える活動を展開している。 | 詳細はこちら
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