【北海道 上士幌町】村上農場 最終日、豆のタネを蒔く
菜園の手入れとかぼちゃの植え替え
研修 最終日。農場の朝は早い。午前7時から朝礼が始まります。
仕事の段取りを聞き、豆のタネ蒔きまでは出荷の手伝いと、菜園の幼苗植え替えを習いました。
私の所持する天気予報は9時から雨、小林先生のは10時から雨、農場長のは昼から雨。いずれにせよ、雨。降ったらタネは蒔けません。機械に入れたタネが濡れると詰まるのです。土が濡れるとダマになって、いい塩梅に植えられないのです。
気もそぞろにハウス仕事をしながら、出動を待ちました。
そして、いざ、出陣です
今にも雨粒が落ちてきそうな曇り空。天を仰ぎ、豆の神さまに祈りました。声を出して真剣に「豆の神さま、降らせないでください」と。
時折、小雨が降ってきて、気まぐれに晴れ間がのぞいて、本当は雨を降らせたいのに「天は私の願掛けに引っ張られているのかも?」と思いました。農場長がいつ「止めておきましょう」と言われはしないかとヒヤヒヤしながら、タネ蒔きの準備を見守りました。
昨日、出動寸前まで準備してたはずなのに、今日も準備が続きます。
農場から倉庫奥の畑へ、走っても行ける距離をトラクターと軽トラで行きました。KUBOTAの後ろにTABATAのプランターという機械が取り付けられています。
畑に着いたら直ぐに蒔き始めるのかと思ったら、そこからまた準備の続きが始まります。豆をどの間隔で何粒ずつ蒔くのか、オレンジのギザギザ(ギヤというそうです)を2つ組み合わせて調整します。
豆をTABATAの4列に入れ、2種類の肥料を何キロ落とすかを調整し(肥料は「撒く」ではなく「落とす」)、少し進んだら機械を止めて地面を確認します。
「やっと蒔き始めたと思ったのに、また止めるの???」と思うけど、流れを知らないから黙って見てるだけ。
タネを蒔いたあとは自動的に土を平らにならして進むのですが、土を掘り起こしてどこに蒔いたかをチェックします。花豆の場合、豆と豆の間隔(株間:かぶま)は31センチ、深さ2センチ。
確か2019年の取材時も聞いたはずだけど、その時はただ聞いてメモしただけで、実際にこうやって機械を進める前に間隔を確かめているとは、思いもしませんでした。
大型機械まきには大型なりの、気が遠くなるような地味な作業と、ハイスペックな頭脳が必要です。
頭脳と緻密さ、几帳面すぎるほどの正確さ、・・・そうしないとブレやズレのままの畑になったら、おそらく収穫まで、今シーズンずっと都合の悪い作業をすることになってしまうのだと思います。
印刷物の刷り始めに「見当ズレ/版ズレ」がないか、調整する作業と似ているように感じました。
農業歴36年の農場長から、地べたに膝を着いてタネを蒔くことを教わる小林さんは、村上農場の若きリーダー。勤続6年にして、豆の担当責任者です。
畝と畝の間隔も、スケールを出して計ります。種蒔き機械が進むとき、次に蒔く目印のラインを地面に引きながら進みます。
目印の鉄の棒も重かったです。重くないと振動で曲がるし、浮いたら困るし、重くて当然なのだけど「えいっ!」と声を出して、力を込めないと動かせないくらいガッシリと機械に接続されていました。
機械の見張り役
その日、片道220メートルの畑に、紫花豆を2往復(4本)と、白花豆を5本(2往復半)蒔きました。一度に4列ずつ蒔きますから、1列に換算すると、紫花豆は220m×16列=約3.5km、白花豆は220m×20列=約4.4km蒔いたことになります。
こんな計算をするのは、手竹を4本ずつ挿して上部を結ぶ作業が後に続くから。人の手作業で行われます。考えるだけでゾッとします。
手竹を挿すのは種蒔きから約2〜3週間後、おおかた6月10日頃になるそうです。
タネを蒔く「プランター」の穴に花豆が詰まらないか、私は左の2列を見守りながら機械の後を着いて行きました。詰まりそうなときは、カマの背でつつく役。
「まるで餅つきのペッタンおばさんみたい」とおかしくもあり、豆のタネ蒔きにいささかでも関わらせていただけることが嬉しくもあり・・・ 感慨深さで、くらくらしました。
雨がダダ降りになって農場長が強行してくださらなかったら、この体験は有り得ませんでした。
九州の田舎の兼業農家の小さな田畑しか知らない元・小娘が、日本で最も広大な北海道の畑に出向いて農業を体験させていただく。井の中の蛙はようやく、溺れそうになるくらい大きな海の広さを体感できたように思います。「このまま、帰りの飛行機が墜ちても悔いはない」と、そんな気持ちになりました。
分からんよね、誰にも。私のこの感覚。「農業で食べていくことなんて、自分にはできない。お母さんは嫁いできた身なのに、どうしてそんなにも、ご先祖さまの土地を大切にできるの?」と思い続けてきた、私の中の歪み。
正直なところ、北海道の広大な大地で行う大型農業で、こんな地味なことが成されているなんて思いもしませんでした。大きな機械がスーッと入って、ガーッと一気に蒔いていくのだと思っていました。
「おいしい豆を作るため」と思いながら、このような地道な作業を、もしかするとアメリカやカナダのファーマーさんたちだって、やっておられるのかもしれません。
いろんなことを考えました。農場の皆さんのやさしさが、身に染みました。みんなが私に豆のタネ蒔きを見せてあげたい、経験させてあげたいと思ってくださっていることが、ひしひしと伝わってきました。
農場の皆さま、3日間本当にお世話になりました。私の豆人生の記憶に残る、しあわせな3日間となりました。
応援してくださった皆々さま、3日目のお昼まで奇跡的にお天気をもたせてくださった豆の神さま、ありがとうございます。
書きたいことは尽きませんが、京都に戻り、溜めすぎた仕事に忙殺され、能力以上の新たな取り組みを続けているため、時間の融通がうまくできずにいます。
お疲れま
髙橋さん、いつも読んでくださって、ありがとうございます。
6月も元気にやっています